2022年8月10日水曜日

2022夏のコラム 「僕がWに乗る理由」

 2022夏のコラム

「僕がWに乗る理由」
小説「彼のオートバイ、彼女の島」(片岡義男著)に、コオが乗るKAWASAKI 650RS W3 が登場する。ミーヨや仲間たちとの交流の物語のなかに、このW3はなくてはならない存在である。
最初に読んだのが確かハタチくらいの時で、そこから何十年もどこか心の隅にある気になる存在だった。

2020年にハンターカブCT125でオートバイライフに復帰し、いろんなところを旅して、やっぱりオートバイは楽しいとあらためて思っている。

若いころは峠や仲間とつるんで走るのが好きだったけど、今はマイペースでのんびり楽しんでいる。
特にハンターカブでの旅は、歩き旅に感覚が似ているとさえ感じる。
最近のオートバイも自動車と同じ用に、最新の技術や安全装備、環境対策、そしてデザインを取り入れており、20代のころから考えたら、別物のように進化していることを感じる。
もちろんそれは素晴らしいことではあるが、私としてはあまり魅力を感じない一面があるのも事実である。
自分の気に入ったものを長く使うということが、だんだん実感として身についてきた感覚でもある。
とはいえ、飽きっぽい性格も併せ持っており、気にいるものをいつも探しているのは否定できないのである。

そんな休日の夏の日。

ふらっと立ち寄った(狙って)カワサキプラザには、Ninjaシリーズや、映画トップガンでマーベリックが駆るH2なども置いてあって、すごいなー、デザインきれいだなー、転倒するといくら掛かるのだろうなどと考えふけっていると、店員さんと雑談のなかでWの話を持ち出してみた。

展示車両はないけど、県内に一台在庫車両あるらしい。

せっかく来たので、とりあえず見積もりもらって、美味しいコーヒーをごちそうになり、「検討して連絡しますー」と言って店を出た。

昨今のオートバイは欲しい車輌が買えないのが常である。
コロナの影響で部品供給や輸送が滞り生産もままならない。納期不明、受注中断。
おまけに中古車両は値上がりして、ハードルも上がっている。
自動車も同様であるが、それが現状なのである。

そんな中で、「在庫あります」という言葉は「神の啓示」にあったような感覚を覚えたのだ。
Wを買っていいのか、いつまで生産されるかわからないぞ、チャンスはいまだ、W3ではないけど、バーチカルツインに乗れるぞ、置き場所はどうする、そもそも原資はあるのか、いやなんとかなる、いまなのか、このタイミングを逃すとどうなる、どうする、どうする…
そんな葛藤の一夜を過ごして、翌日には「商談を進めたい」と電話している私がいた。
この時点で「気に入らないことがあったらやめる」ということだけ決めた。

商談のために再びカワサキプラザを訪れた私の前に、なんと「W800」が鎮座していた。

店員曰く、「実物見てもらおうと思って持ってきました」。
こいつできる営業か、もうノックアウトである。ハンコを押したのは言うまでもない。(今はオートバイの購入と登録にハンコ不要です)

芸術的とも言える空冷2気筒エンジンとクランクケースが醸し出す造形美、フィンの美しさ、バルブ駆動のためのベベルギア、キャブトンタイプのマフラー。手のかかった燃料タンクの塗装、クロームメッキで彩られたハンドルバーやフェンダー。当時を再現したスイッチボックス。ヘッドライト、燃料タンク、シート、リアフェンダーに続くライン、まさに「THEオートバイ」である。

W800は、2019年に令和2年排ガス規制に適合して復活した。
オートバイも排気ガス規制は厳しく、適合しにくい空冷エンジンや古い設計モデルは姿を消していった。ヤマハセローやSRもその代表である。古いものは残れないのだろうか。当時を知るものとしては寂しい限りである。

特にオートバイは生産台数が自動車ほど多くなく、コスト回収も難しいと聞く。メーカーも苦渋の決断だったのだろう。
そんな時代、Wは復活した。
往年のメグロKシリーズ、W1S、W1SAと、そのデザインやコンセプトを大切に受け継ぎ時代に合わせて進化してきた。そして残ってきたのである。

新しいものには興味がないといえば嘘になる。
しかし、若い頃に憧れたもの、強烈なインプットを受けたもの、これらはどこかに残っているのだなと再確認した。

古き良き時代を懐かしむというのは、自分の中に潜在的にある体験や思いを再確認している行為の一つなのではないか。それは人生を振り返り自分自身を見つめ直していることなのかもしれない。

人生振り返りのなかで出てきた次の行動が、「Wに乗る」。
ということなのである。

そして、Wに乗って浅間山に行こう。

私は息子に「あと20年したら、このWはお前に譲ろう」と言った。
息子は「大きなオートバイはいらない」と。
まあ、まだ時間はあるさ。

丸いクランクケースと、ベベルギア。

グラマラスなタンクと、オーセンティックな2眼メーター。

この角度が艶かしい



笑みがニヤニヤ




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